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物欲魔人
2018年12月3日 B.I
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
とある土曜日、自宅から少し離れた所で行われているマンション建築のための解体工事の音で目が覚めた。
もう少しだけ寝たいという誘惑が襲ってきたが、もう一度寝てしまうと昼まで起きれないと思い、なんとか体を起こした。
薄く開いた目をこすりながらリビングへ歩いて行くと、うっすらとテレビの音が聞こえた。
リビングに入ると「これいいな~、欲しい~。」という声が響いた。
この時点でなんとなく予想はついたが、テレビの画面に目を移すとテレビショッピングで毛皮のコートを紹介していた。
母はテレビショッピングが大好きで、暇さえあれば見ているのではないかと思うほどだった。
テレビショッピングは今や24時間放送されていて、顧客である主婦の心をつかんで離さない。
自分の好きな番組が24時間放送されていることはただただ嬉しいことだと私なんかは思ってしまうが、母を見ているとそうでもなさそうだ。
商品が紹介される⇒ついつい見てしまう⇒セールスポイントを小出しに説明される⇒購買意欲が高まる⇒我慢する⇒特別プライスでお得感を演出⇒今買わなかったら損かもと、前向きに検討⇒我慢する⇒次の商品へ
この無限ループを永遠に繰り返している。
はたから見ていると期待感だけが膨らんでいき結局買わないという高低差に喪失感だけがたまりそうだ。
では、見ているだけで全く買わないのかと言うとそうではない。
ごく稀にこれだという商品は人知れず買っているようだ。
だからこそ買った商品が家に送られてきた時は幸せオーラに溢れていて、何かお願い事をするならこのタイミングがベストだと内心狙っている。
普段なかなか買えないからこそ買った時の喜びもひとしおで、賭けごとに似た一種の中毒性があるのではないか。
それを考えると母のテレビショッピング好きはこれからも続きそうだ。
一方、テレビを見ている母の横で3つ下の弟がソファで横になり携帯を手にしていた。
最近携帯を買い換えてからますます手にしている時間が長くなっているが、何をしているかと言うとお気に入りのネットショッピングのページを行ったり来たりしているらしい。
弟は家族の中で飛び抜けて物欲が強い。
ネットショッピングを始めた時は次から次に欲しい物をおねだりされ、あまりの勢いに「物欲魔人」と呼んでいた時もあった。
今年大学院を卒業し、来年晴れて東京の会社に就職が決まったが、そういった部分は少し心配している。
土曜の朝は家の掃除が日課である父は二人に比べて物欲がほとんどない。
ただ、何か一つの事に熱中するとどっぷりとはまってしまう性格だ。
昨年私が投資を始めたいという話を持ちかけた時もリスクを心配して少額ならということで折り合いがついた。
それから父も投資に興味を持ち、週末は弟に負けず劣らずスマホ片手に情報収集に勤しんでいる。
その熱量は遥かに私を超えていて別の欲が父を奮い立たせているが、本人が楽しそうなので何よりだ。
そんなある日、家族4人で久しぶりに食事と買い物に行く機会があった。
物欲魔人である弟が洋服を見に行きたいと言ったので、たくさんのお店が入っているショッピングモールに行くことにした。
弟は家族と一緒に洋服を見るのが恥ずかしいらしく一人で見て回りたいということだったので、父と母が食料品を買いに行っている間、弟と私は自由行動になった。
弟を一人にすると物欲魔人の片鱗を見せるのではないかと心配したが、だからといってどうすることも出来ないので私は私で洋服をぶらっと見て回り時間が余れば本屋にでも行こうと思った。
言い忘れていたが、私は自分自身物欲はほとんどないと思っている。
必要最低限のものを必要な時に買えばそれで十分だ。
とはいえせっかく来たので、色々なお店を見て回ると自分自身があまり持っていない冬物の服が多く目に留まった。
そういえば去年の冬はもうちょっと服を買っとけばよかったなと後悔したことを思い出した。
「これいいな」「さっきのお店で見たもの良かったな」と考えているとその商品を手にレジに向かっている自分がいた。
何点か購入した後、母から電話があった。
食料品を買い終えたようだが、この電話の前に弟に電話をかけるともう少し見て回りたいということだったので、時間を指定し、待ち合わせ場所に集合することにした。
事前の予想どおり、弟はどれくらい買っているのかますます心配になった。
私もまだまだ見て回りたい気持ちがあったので次の店次の店へと足を運んだ。
店を回れば回るほどそれに比例して購入した商品が両手を塞いでいった。
本屋に行くまでもなく待ち合わせの時間になった。
買い物を終え、少し冷静になったのか他のお客さんを見てみると自分ほど両手に紙袋を下げた人はいなかった。
それに気付き少し恥ずかしくなったが、そんなに高い物を買ったわけでもなく、頻繁に買い物に行くわけでもないので、と理由をつけて心を落ち着かせようとしたが、待ち合わせ場所へ向かう足取りは自然と速くなった。
待ち合わせ場所に着いたが、そこに家族の姿はなかった。
どうやら一番手のようだ。
紙袋をベンチに置き数分待っていると、父と母がこちらに歩いてくるのが見えた。
よく見ると、母は手ぶら、父は両手に紙袋を持っている。
その光景はちょっと意外で、物欲の無い父がこの短時間で2つの商品を買ったことに驚いた。
と思ったが、話を聞いてみるとそれは2つとも母が買った商品で父はただの荷物持ちだった。
この短時間での決断はさすがテレビショッピングに精通した物欲魔女だと思った。
会うなり早々母が驚いた表情で「そんなに一杯買ったの?」と言った。
「気づけば買っちゃった。でも、物欲魔人はこんなものじゃないと思うよ。」
たくさんの紙袋を両手に抱え、歩く姿が頭に思い浮かんだ。
「まあ確かにあの子は心配ね。」
そうこう言っていると魔人が向こうから歩いてくるのが見えたが、そこには目を疑うような光景があった。
商品を何一つ持たず、手ぶらだった。
あまりの衝撃にその場で数秒立ちすくんでしまった。
魔人はこちらにある紙袋の数に驚いたのか、「買ったねー。」と言った。
「確認だけど何も買ってないの?」と聞くと、
「買ってないよ。」と真顔で答えた。
「家であれだけ洋服が欲しいって言ってたのに、買わなくて大丈夫?」
「欲しい物は一杯あったけど買うのはネットって決めてるから今日はあくまで下見。同じ種類の物でも違う色があったり、金額を見てもネットの方が安いからね。ネットの場合ボタン一つで買えるから消費癖があるって思われがちだけど、お店に買いに行ったら行ったでせっかく来たからなんか買わないとっていう気持ちになるでしょ。まさに目の前の紙袋の数がそれを物語ってるけど。」と、笑顔で言った。
ぐうの音も出なかった。
家に帰ると弟はさっそく今日見たものを参考にネットショッピングを始めた。
これまで同様お気に入りのページを行ったり来たりした結果、買った商品は2点だけだった。
お店で商品を実際に目にすると購買意欲が高まりついつい買ってしまうが、ネットショッピングは時間的な制限もなくじっくり選定できる点では無駄遣いを減らせるのかもしれない。
そうすると、テレビショッピングは商品ごとに紹介される時間に制限があるので、心理的には自分自身の行動と似通っている部分があるような気もする。
今買わなかったら後悔するという気持ちが物欲の根本にあるのだと気付かされた。
ひとつ思い当たる節がある。
昔から旅行に行った時にその現地にしか売っていないものをついついたくさん買ってしまう私は、物欲魔人の片鱗があったのかもしれない。
弟は口々にこれが欲しいと言うが、結果だけ見れば私の方が一度に多くの物を買っている。
でも自分自身が弟を超える物欲魔人だとは思いたくない。
よし、ネットショッピングに切り替えることから始めよう、そう思った。

編集長
物欲魔人ww実家で暮らしていた頃の私も家族から密かにそう呼ばれていたのかもしれない・・・酷いときは毎日のようにあれやこれやとネットショッピングで購入した商品が宅配で届き、その度に母は「またぁ~~~?!」と呆れ顔(^_^;)あまりに頻度が高いので、いつのまにか佐川やヤマトの配達員の方と仲良しになっていましたww情報収集もネットだし、そのページからそのまま買えたり、楽天やアマゾンのサイトやアプリで買えばポイントが貯まりやすかったりと、ネットの方がお得で便利なんですよね。送料も実際に店舗へ出向く交通費と比較したら安くつく場合も多いし。私も現物チェックしてからその場でネットで購入することがよくあります。でもカード決済はついつい使いすぎてしまうので、支払明細を見て愕然とすることが多々あり….(^_^;)
B.I氏の弟さんはむやみやたらに買い漁るわけでもなく「情報収集」「価格比較」「必要性」等々きちんと考えていそう。「迷ったら買う」「気に入ったら色違いで買う」こんな私なんかより全然堅実じゃないですか~!!最近は私の中の「無駄遣いを止めたい自分」が頑張ってくれていて「早く売切れろ!!!」と念じながら何とか耐えていますww
投稿者プロフィール

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新メンバーで業務部の「B・I」こと大島知弥。月初のブログ当番。彼が書く文章は実話に基づきながらもどこか小説風。しゃちょーから月初当番を任されるのには頷けます。資格試験の猛勉強も継続中!
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コメント
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「限られた時間でしか入手できない」
と言う心理は確かに買物欲を高めるかもしれませんね
B.Iさんは時間に囚われた時にその心を解放すべく
内に秘められた魔人の扉を開けてしまうのかもしれません。。。
そこに現れるのは
物欲魔人
いや、姿こそB.Iを装っているものの
それはまさしく
物欲魔神の顕現に他なりません。
ネットと言う時空の狭間にさえその恐声を轟かせ
ありとあらゆる「あなたへのおすすめ」を吸い上げてご購入
死屍累々を踏み潰して立ち上がり
その口元にはうっすらと笑み、amazonスマイル。。。