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閉ざされた世界
2021年 8月 2日 B・I
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
エピソード1
「閉ざされた世界」
「来週から中間テストが始まるから、
ちゃんと勉強しておくように。」
終礼時、担任の先生がそう言ったのを
松下理沙はどこか上の空で聞いていた。
高校の門を出て家に帰るときの景色は
もはや見慣れたものだったが、
四季によって変わる山や木々の表情は
どこか理沙の心を落ち着かせてくれた。
ここは秋田県の中でも人口の少ない地域で、
理沙は生まれてからここに住んでいる。
父親が公務員、母は専業主婦という家庭に生まれた
理沙は真面目に勉強することが正しい道だと教えられ、
学校のテストは学年でも上位の点数を取り続けてきた。
友達や先生に頭が良いねと言われて悪い気はしなかったが、
どこか決まったレールの上を歩いているようで
心の奥にどこか引っかかりがあった。
お世辞にもテストで良い点を取っていない
クラスメートが自分は将来こんな職業について、
こんなことをしたいと夢物語を話しているが、
そういう人の方がよっぽど
人生が楽しそうに見えるのは私だけだろうか。
そういうことを考えながら下校している中、
ふと我に返ると神社の目の前にいた。
小さいときからこの神社には
何度足を運んだことだろう。
中間テストでいい点が取れるように
お願いしておこうと思い、
境内へと足を運んだ。
参拝客の姿はなく、
鳥のさえずりが聞こえるほどの静けさに包まれていた。
参拝を終えて後ろを振り返ると、
宮司さんがこちらに向かって歩いてきていた。
「理沙ちゃん、久しぶり。こんな時間に来るなんて珍しいね。」
「来週から中間テストがあるので神頼みしておこうと思って。」
これだけ小さな町に長く住んでいると
宮司さんとも顔馴染みになるものだ。
世間的には特別な存在かもしれないが、
私はどちらかというと
近所に住むおじさんという感覚に近い。
私服でランニングをする姿を何度も見かけているが、
その時は宮司の面影もない。
「神様にお願いするのもいいけど、
ちゃんと努力しないと神様は振り向いてくれないよ。」
「えー、そうなんですか?」
「人は不安になったとき、
何かに背中を押してもらいたくなるものなんだよ。
理沙ちゃんは占いを信じる方?」
「私はあまり信じないですけど、
すごく影響を受けている友達はいます。」
「何かに悩んでいる人は何となく
自分の中でその答えを持っているものなんだ。
占いはその答え合わせみたいなもので、
自分の都合の良いように解釈をして
新たな一歩を踏み出す手段として
存在していると僕は思っているんだ。」
「占いをそうやって考えたことなかったですけど、
言われてみれば確かにそんな気がしてきました。
あ、一つだけ聞いてもいいですか。」
「何かな?」
「宮司さんって先祖代々から受け継がれてるんですよね?」
「そうだよ。」
「子供の時から将来宮司になることを
受け入れてたんですか?」
「そんなことはないよ。
むしろ宮司なんかならずに自分の好きな人生を
歩むことだけを考えていたよ。
決まったレールの上を歩くのは面白くないからね。
だから、普通に就職して遊びたい時に遊ぶ生活をしてたんだけど、
家族の事情もあってある程度年齢を重ねてから
結局は引き継いだんだ。
理沙ちゃんはまだピンとこないだろうけど、
受け入れないといけない現実もあるんだよ。」
「何だか難しい話ですね。
何はともあれ、
私もやりたいこと見つけないといけないな。」
「自分のやりたいことって
一生懸命考えても意外と分からなかったりするかもね。
だからこそ、色んな経験を積んでいく中で
自然と方向性が決まっていけば、
それは少なくともその人に興味のあることだと思うけどな。
あ、家に帰って宮司さんにこんなこと言われたって言わないでね。
変な入れ知恵をアドバイスしたように思われたら嫌だから。」
「言わないから大丈夫です。」
理沙は振り返りもう一度神様に向かって手を合わせた。
「これからの人生で多くの経験が詰めますように。」
中間テストが終わった。
今回はあまり勉強に身が入らなかったが、
結果そこそこの点数が取れたので安心した。
テストが終わると親からは点数どうだったと
当たり前のように聞かれ、
私は自分のためではなく、
人のために頑張っているんだと思った。
大変なテストを乗り越えると夏休みという
ご褒美が待っていた。
夏休み初日、
友達の柏木紗季と
市内の繁華街に遊びに行く約束をしていた。
紗季はクラス内でも異色の存在で東京出身、
2年前に父親の転勤に伴い引っ越してきた。
東京で過ごしてきた影響か、
世の中の流行などに対する感覚が
私たちにないものを持っていた。
私はそんな紗季に対してどこか憧れがあったので、
クラスで席が隣になったことをきっかけに
仲良くなれたことは本当に嬉しかった。
待ち合わせ場所でワクワクしながら待っていると、
オシャレな服に身を包んだ紗季が現れた。
「ごめん、待った?」
「いや、さっき来たところ・・・」
普段学校で接している紗季とは違った雰囲気に
一瞬呆気にとられた。
私たちはまず映画館に向かった。
どうしても見たい映画があるから今度一緒に行こうよ、
と紗季に誘われたのがきっかけだった。
映画を見終わると近くのカフェで談笑し、
最近できた洋服屋さんに行くことにした。
お店の前に着くと、
そこは自分が想像していたよりオシャレな雰囲気で
自分一人ではとてもじゃないが入れないような佇まいだった。
私が動揺して立ち止まっている間に
紗季は何の躊躇もなく店の中に入っていった。
ちょっと待ってよと思い、
つられるように紗季の後を追った。
紗季が自分に似合いそうな洋服を
次々に手に取って見ているのとは対照的に、
私は自分が着ているイメージが湧かず、
ただただ傍観していた。
「理沙こんなの似合うんじゃない?」
「えーどうかな、こんな感じのは着たことないよ。」
「絶対似合うと思うけどな・・・」
その後、
紗季は私に似合いそうな洋服を
いくつか選んでくれた。
正直どれも今の自分には
着こなす自信はなかったが、
こういうのをきっかけに
自分を少し変えれるのではと直感的に思った。
「私これ買おう。」
紗季は自分の買うものを一つ決めていた。
「理沙は何か買う?」
「私これにしようかな。」
それは紗季が選んでくれた内の一つだった。
「お互い買った服を着てまたどこか遊びに行こう。」
理沙にとっては
決して安い買い物ではなかったが、
心の中は満足感で一杯だった。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
帰り道で紗季が突然、
「理沙はライブって興味ある?」と聞いてきた。
「音楽は好きだから一回ぐらい行ってみたいな。」
「実は今度東京で開かれるライブに
友人と行く予定だったんだけど、
急遽その友人が行けなくなっちゃってさ。
一人でわざわざ東京まで行くのも寂しいし
あきらめてたんだけど、どうかなと思って。
あ、別に無理やり来てって
お願いしてるわけじゃないからね。」
秋田県の小さな町で育った私にとって
東京はもはや別世界と思えるほど遠い存在だった。
これまで東京に行きたいと思ったことはなかったが、
ふと先日宮司さんから聞いた話が頭をよぎった。
「色んな経験を積むことで人生の方向性が決まる」ということを。
「私そのライブ行けるんだったら行きたい。」
「本当に?」
「でも、親がたぶんダメって言うと思う。
一応聞いてみるね。」
「行けたらいいね。」
「ただいま。」
「おかえり。どう、楽しかった?」
母が夕食を作りながら尋ねてきた。
「色んなところに行ったけど、
疲れを感じないくらい楽しかった。」
「あれ、何か買ったの?」
「うん、洋服を買った。」
「理沙が一人で洋服を買うなんて珍しいね。
今度デートでもあるの?」
「ないよ!もう変なこと言わないで。
あのさ、一つ相談があるんだけど。」
「何?」
「今度友達と東京にライブを見に行きたいんだけど。」
「何言ってるの、そんなのダメに決まってるでしょ。
遊ぶところならもっと近くにいっぱいあるでしょ。」
「そうだよね・・・」
こういう返事が来ることは薄々分かっていたが、
ここまできっぱり否定されるとつらいものがある。
夜、部屋で一人きりになると今日買った洋服を手に取った。
これを着て外に出ている自分を想像するとワクワクした。
紗季にメールを送らないと。
「今日は色々とありがとう、本当に楽しかったよ。
ライブの件、相談してみたけどやっぱりダメだった、ごめんね。」
次の日の朝、起きると父が朝食を食べていた。
私も朝食の準備を済ませ、いつも通り父の向かいに座った。
しばらくお互いテレビを見ていると、
ふいに父が
「東京にライブを見に行きたいんだってな」
と聞いてきた。
まさか父の口からその話が出るとは
思わなかったので、驚いた。
「うん、でももう諦めた。」
しばらく沈黙の時間が流れた。
「行きたかったら行ってもいいぞ。」
「え・・・、ほんとに?」
「ただし、いつでも連絡を取れる状態にしておくこと。」
「分かった、ありがとう。」
朝食後、すぐに紗季にメールを送った。
「お父さんがライブ見に行ってもいいって。今度一緒に行こう。」
すぐに返信が着て、すごく喜んでくれた。
父が仕事に出かけた後、
私は母にどうしても聞きたいことがあった。
「どうしてお父さんはライブに行くことを認めてくれたの?」
母は昨日の会話を思い返すように話し始めた。
「パパは理沙が小さいときから
将来は広い視点を持って活躍できる人に
なってほしいってずっと言ってたの。
本当は色んなところに
連れて行ってあげたかったんだけど、
それが出来なくて後悔してたみたい。
でも、若い女の子だけで行くから心配してたよ。」
その話を聞いて胸が熱くなった。
自分は今という限られた環境に縛られなくていいのだ。
そして、
今度東京に行くことが理沙にとって
人生のターニングポイントになろうとは
本人は知る由もなかった。
レベストジャー・レッド
B・Iさん
2作目スタートですね(*´艸`*)
今度は女子校生が主人公ですね(*´艸`*)
レッドは女子高生大好きなので・・・。
変な意味ではないですよ(*´艸`*)
本当に違いますから・・・(*´艸`*)
2020オリンピックでも新しいスターが
それも若い!若すぎるヒロインが誕生しました
スケボーで若干13才ですからね!!
オリンピックも目が話せないですが
B・Iのお話からも目が離せない(*´艸`*)
どんな展開になるのやらヘ(゚∀゚ヘ)アヒャ
人生のターニングポイント!!
東京で何があるのか??
もしかして悪い魔の手が・・・。
そんなと時はB・Iさん分かっていますよね!
レッドはいつでも用意できていますから∠( ゚д゚)/
今度こそレベストジャーが登場するかも・・・・。
レッドのターニングポイントになるかもヘ(゚∀゚ヘ)アヒャ
そんなドキドキハラハラを期待しながら
来月をお楽しみに(*´艸`*)
編集戦隊レベストジャー!! !!!
投稿者プロフィール
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* * * * *
新メンバーで業務部の「B・I」こと大島知弥。月初のブログ当番。彼が書く文章は実話に基づきながらもどこか小説風。しゃちょーから月初当番を任されるのには頷けます。資格試験の猛勉強も継続中!
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コメント
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B.I.さん♪
新しい物語の始まりですね〜!
子どもにはいろんなこと経験させてあげたい!
自分で見て聞いて体感して、1つづつ選択していく力を身につけて欲しい。
東京で何が起こるのでしょうか…。
第2話楽しみにしています⭐︎
無敵JK!
素晴らしい世界が広がっていそうなワクワク♡
以前、まぴさんのブログにもコメントしたけど、なんかJKは無敵!って感じがする。
何者でもない。
何者にでもなれる。
若いって素晴らしい。
さぁ~ 第2作目のはじまりですね(^o^)
これからどんな展開が待っているんだろう!
B.Iさんが頭のなかで、いろいろと思考しながら
物語は作られていくんだろうけと、
この文章のなかにも、B.Iさんらしい
人となりが表れているところが楽しいね。
神様にお願いするのもいいけど、
「ちゃんと努力しないと神様は振り向いてくれないよ」
「色んな経験を積むことで人生の方向性が決まる」
このような言葉は、B.Iさんらしいなぁと
思いながら読ませてもらってます。
あ~ダメだ、ダメ~
評論しちゃ~ダメだよね。
純粋にこの物語を楽しみたいと思います!
今日から8月がはじまりました。
大阪も緊急事態宣言も発令されましたが、
厳しく暑い8月も、楽しく乗り越えていきたいですね!