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運命のルーレット
2019年7月1日 B.I
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
約2カ月に一度、運命のルーレットが回る時が訪れた。
身支度を済ませて家から歩いて10分ほどのある場所へと向かった。
店内に入ると心地よい音楽が聞こえてくるのと同時に、目の前には順番を待つ3人の先客が席に着いていた。
受付を済ませ4人目のお客として席に着くと、いつものように店内を見回した。
今日働いているのは、全部で3人。
「ジョニー・デップ店長」「実直」「しゃべくりマン」
これは僕が勝手につけたあだ名だ。
お客として席に着き、鏡越しに受けた印象を基に命名した。
鏡越しということで気づいた人もいるかと思うが、ここは私が長年通っている美容室だ。
「ジョニー・デップ店長」はその特徴的な髪形が俳優のジョニー・デップに似ていたから、「実直」は会話が少なめだが、考えながら髪を切っている姿に仕事への熱意を感じたから、「しゃべくりマン」は最近見かけるようになり新しく入ってきた人なので、実際に髪を切ってもらったことはないが、前回ジョニー・デップ店長に切ってもらった時の横の席でしゃべくりマンが違うお客を担当していた時の印象が忘れられないものとなっていた。
手を止めてお客と会話をした後、シャキンシャキンと髪を切る。
髪を切り始めたかと思うと手を止めて会話を始める。
私の感覚ではその割合が会話7に対して髪を切る3ぐらいだ。
会話をするのが悪いというわけではないが、髪を切るときのスピード感がどうも投げやりに見えてしまう。
というような最初の印象から「しゃべくりマン」と名付けた。
そんなことを考えている内に、一人目のお客が呼ばれた。
その担当はジョニー・デップ店長だった。
しばらくすると二人目のお客が呼ばれ、担当はしゃべくりマンだった。
ということは三人目が実直で次の私はジョニー・デップ店長ということになる。
予想通り三人目は実直が担当となり、次が私の番となった。
ここから少し時間が空き、私の名前が呼ばれた。
顔を上げると、ハットをかぶった中年の男性が立っていた。
しゃべくりマン・・・
呆気にとられてしまった。
その顔はまるで今から異世界へ誘うかのような不敵な笑みを浮かべていた。
でも実際にこれまで嫌な思いをしたわけではなく、前回見たときは担当したお客に合わせてマシンガントークになっていたのかもしれない。
考えすぎ、考えすぎと思いながら席に着くなり、
「今日は暑いですね」というしゃべくりマンの何気ない一言が全ての始まりだった。
「この後はどこか行かれるんですか?」
「いや、特に予定はないので家でゆっくり過ごします。」
「そうですよね、外にいるだけで暑いので家でゆっくり過ごすのが一番いいかもしれないですね。」
「はい・・・」
「私毎週ランニングをしてるんですけど、暑くなってくると行くのが億劫になったりするんですよね。運動は日頃しないんですか?」
「走ったりとかはないですね。ゴルフの練習には行きますけどそんなに動いたりというわけでもないので体がなまってるかもしれないですね。」
「私なんか運動しないとすぐ太っちゃうので、ワハハハハ。」
「はい・・・」
会話が途切れたところで「今日はどういった髪型にしましょうか?」
ようやくスタートだ。
水で髪を濡らし、切り始めるときに、
「私が担当するのって始めてですよね?」
「始めてです。」
「実は1カ月ほど前にこちらの店で働き始めたんですけど、1つ聞いてもらいたい話がありまして・・・」
心の中では髪を切りながら話をしてもらいたいんですけど、と思ったがそう言えるはずもなく、「なんですか?」というと
「実は前の店舗で貸家を借りて、所有者に許可をもらって美容室に改装してやってたんですけど、ある日突然家を明け渡してほしいと言われたので、出ていかざる負えなくなってしまって今に至るんですよ、言われたのが本当に突然で、どう思います?」
シャキンシャキン
「いや、それは大変ですね。」
シャキンシャキンシャキン
よし、そのまま切り続けろ!
「それだけだったらまだしも、この話には続きがありまして・・・」
手を止め鏡越しに目が合うと、楽しそうに話し始めた。
「出て行く時に美容室の中にあった専用の機器類を全部持って行ってほしいと言われたので、その時は次に違うところでお店を開く予定もなく、捨てざる負えなかったので、車に詰め込んで処分場まで自分で持って行きましたよ。これが大変で。ワハハハハ。」
シャキンシャキン
「ここもう少し切ったほうがいいですかね。」
「そうですね。」
シャキンシャキンと慣れた手つきで切りながら話し始めた。
「出来るんかい!」
鏡に映る自分が口パクでそう言った。
「荷物を処分場まで持って行ったら引き取るのに費用が掛かりますって言われたんですよ。もうびっくりで。知ってました?」
「いや、始めて聞きました。」
「それで、結構重い荷物を持ってきたし、結構な大金を取られるのかと思って費用を聞いたら・・・」
わずかな沈黙が流れた。
「たった数百円、だったらお金取るなっていう話ですよね。」
やっぱりオチが弱い、と思ったこちらもどうかとは思うが、この話実は前回ジョニー・デップ店長が担当だった時に、横の席で違うお客にまったく同じ話をしているのが嫌でも耳に入ってきていた。
おそらく初めて担当する人への鉄板トークなのだろう。
ここまで話し終えると会話が止まり、出遅れた時間を取り戻すように髪を切り始めた。
あまり考えることなく、感覚で次々と切っているように見える手際の良さは、天才肌なのか、経験がものをいうのか、ただ単に思い切りがいいのか、それは私には分からない。
ただ一つ言えることは、やっぱりこの人は「しゃべくりマン」だということだ。
髪を切り始めたかと思いきや、次から次にエピソードや質問が飛んでくる。
特に時事ネタに関しては専門家のごとく知識量がすごい。
情報源は新聞とテレビらしいが、すごい詳しいですねというと、
「接客業で男女関係なく色んな年代の人と話をするので色んな所にアンテナを張る意識は大事にしてますよ。」
これまで抱いていたしゃべくりマンとは違う人物がそこにいる気がした。
そう気づいたときから、これだけお客と1対1で長い間話すことができるのは、一つの才能ではないかとふと思った。
その後何度かこの店を訪れたが、しゃべくりマンの姿を見かけることは無くなった。
まだこの店で働いているのか、それとももういないのか。
聞けばすぐに分かることだが、しゃべくりマンのことを気にかけている自分がそこにいた。
この店に来るときの一つの楽しみにしよう、とってつけた理由で確認するのはやめることにした。
そして、もう一つ気になることは最近新しい美容師が入ってきた。
「あだ名はまだ無い」
夏目漱石の「吾輩は猫である」の冒頭みたいになってしまったが、何を隠そうその美容師は特徴がない。
いつか担当になればその時があだ名を命名する日になるだろう。
自分自身の中で新たな運命のルーレットが動き出した。
すでに皆さんご存知でしょうが、私は超人見知りゆえ、懐いている担当の人以外とは自発的に会話しませんww チャラい男性美容師がヘルプで入ろうものなら、その瞬間から私は口をつぐんで貝になります。。。ややこしい奴ですねw 逆の立場になって考えると、毎日入れ替わり立ち代りやってくるお客様達をきちんと把握し、以前したであろう会話から話題を探して振ってくれたり、、常に豊富なトピックスを持ち合わせ、髪に関する知識や技術はもちろんのこと、記憶力も無いとやっていけない。しかも1日立ち仕事!!という大変お仕事ですよね。(人の顔と名前が一致しない、、誰とも話したくない日もある私には無理←)私は美容院をあまり変えるタイプではないですが、まだ関西には馴染みのない最新の施術を受けられるらしい、、と聞き、今年から自宅の近くにある小さな美容院にチェンジしてみました!!とは言ってもまだ行ったのは1度だけ。「太・硬・多・癖」という私の四重苦が少しでも軽減されますように~(;;)
投稿者プロフィール
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新メンバーで業務部の「B・I」こと大島知弥。月初のブログ当番。彼が書く文章は実話に基づきながらもどこか小説風。しゃちょーから月初当番を任されるのには頷けます。資格試験の猛勉強も継続中!
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