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エピソード2「原点回帰」
2023年 2月 1日 B・I
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北野理沙・・・文具メーカーの営業所属
飯島智美・・・文具メーカーの総務経理所属
大江真理奈・・・文具メーカーの商品開発部所属
大江が所属する商品開発部は会社の中では花形の部署だった。
他の部署よりもはるかに人数が少なく、
少数精鋭で会社の売り上げを左右する新商品の開発を担っている。
アイデアを考えることに一番苦労するが、
原案が決まってもそれを商品化まで持って行くには
いくつもの超えなければならないハードルがあった。
入社後、商品化までの一通りの流れを始めて経験したとき、
確認項目の多さに正直心がくじけそうになり、
先輩に人を増やさないのか聞いてみたところ、
人を増やしていくとその分意見がまとまりにくくなり
結果として開発までのスピードが遅れてしまうそうだ。
商品開発部は採用を数年に一度しか行っていないので、
狭き門をくぐり抜けてきた大江は部署内でも期待され、
かわいがってもらえる存在だった。
風のうわさで聞いた話だが、
来年は採用活動を行う可能性が高いらしい。
入ってくる後輩に頼られる先輩でありたいという思いが、
大江の背中を自然と後押ししていた。
大江が仕事に没頭する中、
営業の北野は担当エリアでの各店舗ごとの
月の売上が記載されたグラフと向かい合っていた。
最低でも横ばいでキープしたいところだが、
緩やかに右肩下がりになっている店舗が
徐々に増えていることに頭を悩ましていた。
気になる店舗には足を運んで陳列状況を確認したり、
お店の人に話を聞くことで、
消費者の傾向を掴んで改善策を練ることが営業として大事な役割だった。
文具は生活に欠かせないものだから
市場規模も安定していると思っていたが、
実際のところは少子化やオフィス環境のデジタル化などの影響で
ここ数年は減少傾向が続いていた。
また、ネットショッピングを利用しての購入もいまや当たり前になり、
環境の変化に対応していくことが求められていた。
北野は仕事に行き詰り、
すがるような思いである場所へ足を運ぶことにした。
「店長お久しぶりです。」
北野は話しかけるときに営業としての笑顔ではなく、
親しい人と話すときに自然と溢れ出る笑顔で声をかけていた
。
「北野さん、最近顔出してくれないから忘れられてるのかと思ったよ。」
店長の山岸恵一は嬉しそうな笑みを浮かべながら冗談交じりにそう言った。
「忘れるわけないじゃないですか、困ったときいつも助けてもらってるのに。」
ここはオフィス街の中にある江戸川文具店というお店で、
個人向けから法人向けまで多種多様な商品を取り揃えていて、
近くに学校もあることから様々な年代の人が
立ち寄る店舗として北野は重要視していた。
元々は先輩が担当していたのだが、
数年前に引き継ぎ、
定期的に顔を合わせる中で少しずつ信頼関係が深まっていった。
山岸は年齢が30代前半で、
私が引き継いでから数か月後に結婚したのだが、
そのことを先輩に伝えると、
次会うときに菓子折りを持って行くようにアドバイスされた。
アドバイス通り菓子折りを持って行ったところすごく喜んでくれて、
その後はお互いに何でも相談し合える仲になった。
山岸はいつも通り北野を事務室に案内して温かいお茶を出してくれた。
「今日は新商品の案内で来てくれたの?」
「いや、実は山岸さんに仕事の相談をしたくて・・・」
多くの店舗で売上が落ちてきていて、
何か対策を講じなければならないが、
これといった案が浮かばないことを率直に伝えた。
「文具を店舗で販売する一番のメリットって何なんだろうね?」
山岸は自分自身に問いかけるように言った。
「店長すいません。お客様対応お願いしてもいいですか?」
スタッフが慌てた様子で駆け込んできた。
「北野さんごめん、ちょっと待っててもらっていい?」
「分かりました。」
一人になった北野は時間つぶしも兼ねて店内を見て回ることにした。
営業でもあり、
一人の消費者でもあるため
他社製の優れた商品は常にチェックしておく必要があった。
ボールペン売り場に気になる商品があったので、
それを手に取って試し書きのスペースにペンを走らせた。
「人生は苦労の連続である」
自然と今の気持ちが表れた瞬間だった。
山岸は文具を見ていた外国人と英語で話をしていた。
山岸は昔アメリカに留学経験があるため、
最低限のコミュニケーションは取れるという話を
北野は以前雑談の中で聞いていた。
これだけ多くの外国人観光客が旅行に来ていると
接客する機会が増えるのも当然で、
観光気分でお金を使うことを考えると、
英語が話せる店員が一人いるのといないのとでは
思った以上に売上に差が出てくるのかもしれない。
話を終えた山岸が文具を見ている北野に気付いて話しかけてきた。
「北野さんごめん、
外国人のお客さんがお土産としていくつかの文房具を
たくさん購入したいって言ってるからしばらく話できないかも。」
「いい話じゃないですか。
私はこれで失礼するので気にせずにそっちに集中して下さい。
チャンスがあればウチの商品の紹介もお願いしますね。」
「もちろんだよ。また時間作るから。」
そう言い残して山岸は足早に戻っていった。
残念ながら具体的なアドバイスをもらうことは出来なかったが、
自分を応援してくれる人がいることの嬉しさを改めて実感することができた。
結局、これといったアイデアが出ないまま週末を迎えた。
大学の友達とカフェ巡りをする約束をしていたので、
電車で待ち合わせ場所へ向かった。
いつもなら無意識に携帯を見ているところだが、
仕事のことが頭から離れず窓の外を何気なく眺めていた。
行ったことのない文具店の看板が目に入ると、
近いうちに行かないとモヤモヤした気持ちになるのは
職業病なのかもしれない。
駅で友達の滝口奈海と合流し、
案内されるがまま一件目の店へと向かった。
滝口奈海は出版社に勤めていることもあってか、
おすすめの飲食店情報をたくさん知っているので
お店選びには全幅の信頼を置いていた。
案内された場所は年季の入った木造家屋で、
入り口には「CAFE」と書かれた看板だけが置いてあった。
中に入ると女性客で席が埋まっていて、
食べる前に写真を撮っているお客さんの姿があちらこちらで見られた。
「ここはモンブランが有名なお店なの。」
「そうなんだ。最近モンブラン全然食べてないかも。」
「ここのを食べたら他のお店のが物足りなく感じると思うよ。」
「それはさすがに言いすぎじゃない。」
運ばれてきたモンブランは私の知っているものではなく、
それはまさに一つの芸術作品と思えるほど
ついつい見入ってしまうものだった。
北野は滝口とカフェ巡りをするようになってから、
滝口がブラックコーヒーを当たり前に飲んでいる姿に憧れを抱いていた。
紅茶派の私にとって
ブラックコーヒーの苦さは最初は受け付けなかったが、
日々飲んでいると、
ある時から苦みをすんなりと受け入れる瞬間があり、
大人の階段を一歩上った気がした。
滝口とは3軒のカフェを巡り、
美味しいスイーツとゆったりした雰囲気を満喫した。
家に帰りソファに腰を下ろした瞬間、
楽しかった一日が終わり現実世界に引き戻された気分だった。
明日一日予定がないけどどうしよう。
冷蔵庫に飾ってあるカレンダーを見て、
来年の手帳をそろそろ買わないといけないことを思い出した。
翌日、北野は江戸川文具店を訪れた。
山岸店長が休みの曜日だということは把握済みだ。
最近は携帯のカレンダー機能でスケジュールを管理する人も多く、
手帳を持たない人が増えていることに時代の流れを感じる。
お気に入りの手帳を手に取りレジに向かおうとしたところで足が止まった。
自分が書いた
「人生は苦労の連続である」
という言葉の下に
「苦労することは自分自身が成長するチャンスでもある」
「失敗を恐れるものに成功は訪れない」
「情熱が前へと進む原動力になる」
という書き込みがあった。
自分自身はどういう思いでこの業界に足を踏み入れて、
そして何を目標に日々仕事をしているのだろう。
北野はしばらくの間その場から動くことが出来なかった。
頭の中を整理した後、ペンを取りこう書き加えた。
「常識はいつの日か常識ではなくなる」
エピソード3へと続く・・・
レベストジャー・イエロー
B・Iさん
先日、文具女子博って知ってます?
その文具女子博で2017年から
文具女子アワードをスタートさせています。
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今までの文具賞やランキングとはちょっと違った
文具好きが選ぶアワードなんです!!
全国で開催されているようですので
HPに訪れてみてください!!
文具女子博|すべての文具好きに贈る日本最大級の文具の祭典 (bungujoshi.com)
編集戦隊レベストジャー!! !!!
投稿者プロフィール
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新メンバーで業務部の「B・I」こと大島知弥。月初のブログ当番。彼が書く文章は実話に基づきながらもどこか小説風。しゃちょーから月初当番を任されるのには頷けます。資格試験の猛勉強も継続中!
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コメント
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文具って大きく様変わりしてるのでしょうね
昔はこだわりの文具を持っていて
それ1つで仕事の質が変わったりしました
今は、PC、スマホが文具の役割をほとんどしてくれるので
ソフトや、マウス、キーボードのこだわりはありますが
文具はそこまで見なくなりましたね。。。
その中での新商品の開発は
仕事の効率化と言うより
ワークスタイルやライフスタイルの提案から
始まっていくのかもしれません
モンブランはなにかのヒントになるのかしら。。。
大阪の東成区にはコクヨの本社があります。
結婚前に勤めていた印刷屋さんが東成区で、よく前を通ったことを思い出しました。
大学ノートといえばコクヨのキャンパス!
新しいノートに書きはじめるときの高揚感ってなんなんだろうね。
文房具って楽しい。
外国人観光客にも日本の文房具は人気なんだってね!
今でも新しい文房具はワクワクします。
よめた!よめたぞ!
試し書きに連なる”メッセージ”は3人の主人公が・・・
と、無粋すぎるコメントを残す。
B.I先生の次回作はSFかサスペンスか冒険譚か。
日常系はちょっと食傷気味かも